餃子に狂う私と原田にとって、栃木の宇都宮は、憧れの地。
まるで夢見るサッカー少年がブラジル留学に想いを馳せるような、それくらい未知なるサンパウロだ。
そんな餃子のメッカから、一通の封筒が私宛に届いた。
商品や情報が送られてくるのはよくあることだが、赤字で「餃子情報在中」と書かれた書類は人生初。
あわせて宇都宮の消印が押されているのが、なんとも「本場から来た感」を強く感じる。
緊張しながら中身を見ると、一冊の薄い冊子と、手書きの手紙が入っていた。
気品を感じる美しい字で書かれたその手紙は、嫌味なく、だれることもなく、実に簡潔にまとまっていた。
なんでも匿名希望の差出人は、数ヶ月前に宇都宮に移り住んできたとのことなのだが……
あまりにも、その餃子情報は、有益かつ、濃ゆいものだった。
あまりにも。
すごかった。
その衝撃波は、矢追純一が門外不出のUFO機密文書を読んでしまったレベル。
何度も何度も読み返した。
あまりにもレベルが高すぎて、原田とふたりして震え上がった。
というか、たった数ヶ月でそこまで餃子に詳しくなってしまうとは……。
いったい宇都宮とは、どんな場所なんだと。
もう本当に、街のあちこち、裏路地で、日常的にサッカーが行われているブラジルのようなところなのではないかと。
たった数ヶ月の宇都宮暦で、ここまでの超サイヤ人……いや、超餃子人に仕上がってしまうなんて、どれだけ餃子に囲まれた生活を送っているのだと。
だとしたら、生まれも育ちも宇都宮の人なんて、どうなってしまうのか。
石を投げたらマラドーナ。
クラス全員ロナウジーニョ。
ナチュラルボーンメッシではないか。
宇都宮……!
すごい……!
いつも原田とは、「いつか宇都宮に行ってみたいよね」と話し合う。
しかし、今回の手紙をもらってからは、
「宇都宮合宿する必要があるな」
に変化した。
私と原田にとって、宇都宮は憧れの地。
まぎれもなく聖地。
宇都宮はブラジルなのだ。
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