某国のとある安宿に泊まっているのだが、若かりしバックパッカー時代でも躊躇するレベルのハードな部屋で、ひさびさに色々と悶絶している。
とりわけギョッとしたのが、鬼のようにクソでかいGがいたことである。
シャワールームから真っ裸で出た時、ヤツはいた。
やっぱりいたか、と。
そもそも部屋に入った瞬間に「これは出るな」と思ってはいたが、やはり出たかと。
予感は的中。
しかもなんか、真っ裸でヤツと対峙すると、不思議と原始的な気持ちになってくる。
「人間vsG」みたいな。
とはいえ、時すでに遅く、ヤツはベッドの下に隠れていった。
目撃した時、すでに隠れようとしていたのだ。
スリッパで引っ叩く暇もなかった。
マジかよ。
殺 (や)らないと奴と同じ部屋で過ごすことに。
こいつぁハードな夜になるぞ。
すぐさまパンツをはき、ダニだらけと思しきクソ重いベッドをガゴゴ……とズラすも、ヤツは見えない。
iPhoneのライトで照らすも、ヤツの姿はない。
「クソウッ!」
まるで24のジャックバウアーのような気持ちで私は叫び、まだ生存中のヤツと同室で寝ることを決意した。
なーに、かつて私は「絶対に毎日2匹以上のクソ巨大な凶暴Gが出てくる部屋に1ヶ月以上も滞在した」経験の持ち主。
※旅中に肺炎になり容易に動けなかった
ここをベトナムのホーチミンの安宿 (というか人んち)だと思えば、どうってことない。
それに、一瞬だけでも確認できたヤツの動きを分析すると、鬼のようなフィジカルをもってSASUKEばりに動き飛びまわるベトナムの最強Gよりも、なんというか南国的な、のんびりとした動きをしていた。
もし対峙したとしても、そう血で血を洗うような修羅場にはならないだろう……と踏んでいた。
覚悟を決めて、寝た。
しかし気になり、途中で何度も起きるハメに。
変な夢もたくさん見た。
同じ空間に「生きてるGがいる」というのは、こういう間接的な悪影響も与えるから嫌だ。
こんなことなら、もう少しだけ高い宿にしておくべきだったか……と思いながらトイレに行こうとシャワー室に入ったその時!
ヤツがいた!
トイレの便器のすぐ横に、ヤツはいた!
そして、やはり動きはノロマだった!
私はとっさにスリッパでヤツを軽く踏みつけた。
軽く。
なぜ軽くにするのかはあえて書かないが、軽く。
そして、様子を見て、また軽く。
ハイキック1発で仕留めるのではなく、軽いローで動きを止め、そこからは痛ぶるように何度も軽めのローで息の根を止める。
凄惨な現場にしたくない。
その一心で。
ともあれ、殺 (や)った。
だが、私にはヤツを片付ける気力はなかった。
なぜなら、超がつくほどの安宿がゆえ、「トイレには何も流してはいけない」&「なぜかこの部屋、ゴミ箱すらない」からである。
よって、ゴミは、持参したビニール袋を「仮設ゴミ箱」としているが、あと数時間でチェックアウト、もうこのままでも良いかなと思ったのだ。
少しピクピクと動いているヤツの横で用をたし、ベッドに戻って再び寝た。
もう (おそらく)ヤツはいない。
これにて安心して寝ることができる……
……と思うも、持ち前の睡眠障害っぷりをいかんなく発揮し、何度も何度も起きてしまう私。
そしてトイレに行くと……ヤツはそのまま横たわっていたが、なんと大量のアリが群がっていたのである。
どこからやってきたのか不明だが、それはもう大量。
食うのか、それとも運ぶのか、どちらにしてもヤツが見えなくなるほど群がっていた。
それでも、たまにピクピクとまだ動くG。
生命力ってすごいなと思った。
──が、話はこれで終わりではない。
なんとその3時間後……
トイレの真横にいたGとアリが、あとかたもなくいなくなっていたのである。
食い終えたのか、それとも運び終えたのか。
どちらなのかは不明ながら、とにかくアリの大群がGの死骸をキレイさっぱり処分してくれたのであった。
食ったにせよ、運んだにせよ、いずれにしてもすごいスピード。
仮に運んだとしたのなら、どこに運んで行ったのか。
あんなにデカい物体を……。
ともあれ、いろいろ思うところある夜であった。
忘れられない夜になった。