私が悪い。
ちゃんと最後まで読まなかった私が悪い。
でも……という思いもある。
メルカリで靴を買った。
けっこう珍しいナイキの靴で。
エア的な名前のつくシリーズで。
デザイン的にめちゃめちゃカッコイイ。
昔、同モデルの違うカラーのを履いていた。
思い出深くもある。
しかも今回のコレ、「新品・未使用」とある。
さらに相場よりはるかに安い。
写真もある。
たくさんある。
問題ない。
これは買いだと。
で、買って。
わりとすぐに届いて。
開封したら予想以上にカッコイイ。
未使用品なのでピッカピカ。
私はさっそく靴に足を入れ……シンデレラフィット。
こんなのを履いて放浪の旅をしていた時期もあるんだよな。
いろんな国に行った。
インドで靴を履き替えたんだ……とか思い出に浸っていたら、手が真っ白。
よくよく両手を見ると、手が真っ白。
白いペンキがベットリと付いてしまったかのような。
なんなんだこれは。
何が起きているのか。
この靴、ソールあたりがベットベトだぞ。
よくよく見ると、洋服にまで白ペンキが付いてしまっている。
なんなのこれ!?
もしや前オーナー、ここ、塗った?
汚れ隠しの意味で塗ったりした……?
ところがこの状態、調べてみたらどうも「加水分解」というやつっぽい。
経年劣化でゴムがベタベタしたりするやつ。
古いスニーカーのソールとかでは、かなりの確率でこうなるみたいな情報もヒットした。
ちょっとまってよ〜。
なんなのこれ……と、あらためて商品ページをよくよくじっくり見てみたら、
「さらに表示」
ってのが書いてあって、そこ押すと商品説明の「後半」が表示される的な仕組みなのだが、なんとそこに
「観賞用」
とか書いてあるのである。
「コレクション」
とか。
開いてびっくり観賞用(コレクション)。
え?
え?
どゆこと……とよくよく読んでみると、「前半」の「アッサリ情報」とはうってかわって、普通の文章で
「経年劣化で加水分解が始まってて履くのは厳しいのでコレクションや観賞用にどうでしょう」
とか書いてある。
しっかり書いてある。
しっかり書いてあるのだ。
……だがしかし。
だがしかし。
それ、先に書いて欲しかった。
なんならタイトルにも「難あり」とか書いて欲しかった。
なんで「さらに表示」が表示される商品説明(前半)は、難ありの難の話は一切せず「メーカー名、改行、メーカー名の英語、改行、シリーズ名、改行、サイズ、改行、希少、改行……」とかなの?
情報だけみたいな。
機械的な感じで。
でも「さらに表示」を押すと、「経年劣化で加水分解が始まってて履くのは厳しいのでコレクションや観賞用にどうでしょう」とか流暢な文章で書いてある。
なんとも言えない。
なんとも。
書いてあるのだから、向こうは悪くない。
悪いのは「さらに表示」を押し、後半を確認しなかった私。
でも……ってのはある。
もしかして説明欄の前半の「情報、改行の繰り返し」は、「さらに表示」にさせるためのスペース稼ぎなのでは?
そんな被害妄想をしてしまうほど、 「開いてびっくり難あり情報」だったのだ。
結局私はその靴を捨てた。
結構いい額だったんだけど、捨てた。
物理的に履けないし。
もう本当に靴としては使い物にならなく。
単なる「触ったら手が白くなる危険な物体」みたいな感じで。
とはいえ観賞用として飾りたいってわけでもない。
ならば、私もメルカリで売ってしまおう……とは私はならなかった。
そんな難あり、売りたくないよと。
タイトルや商品説明前半にガッツリと状態を書くとか、フェアなことやっても売りたくなかった。
なんだか私みたいな「ハヤトチリさん」を騙すようで。
もしも買ってくれた人も、私みたいな「ハヤトチリさん」で。
その人も「え? え?」と狼狽し。
トラブルに発展する可能性が高すぎる。
やがて、その人もメリカリで売り……とかになっちゃったら、見知らぬ匿名の者同士でやりとりされる、金が絡んだババぬき(AIRぬき)になっちゃうぞと。
損したが、捨てた。
損したが、勉強になった。
ものすごく悲しい気持ちになったけども。