今日からワールドカップが始まるらしい。
なのでサッカーのお話なんかを。
こう見えても私、小学校時代に3年間もサッカーをしていた、隠れサッカー小僧だったのだ。
背番号は12番。
あまりにも下手すぎて、ほとんど試合には出られなかったけど。
なんとオフサイドの意味すらわかっていなかったけど。※そりゃ試合には出せないわ
出られたとしても後半だけ、とか。
そんな私が試合に出た時は、本当に「穴」というか役立たずもいいとこ。
なにせボールが回ってきたら、それをトラップすることすらできないのだ。
こぼれたボールはトントンとラインを割って相手チームのスローインに。
そのたびに、チームメイトがため息混じりに「羽鳥ィ……」と漏らしていたのを思い出す。
だが、とある日。
なんの役にも立たない私に、チームのコーチが裏でこっそりと “指令” を出した。
私を肩に抱き寄せ、後ろを向いて、こっそりと、かつ、力強くこう言った。
「羽鳥、チームの誰かがボールを持ったら、とにかくゴールめがけて全力で走れ」
──と。
なにがなんだかわからないが、とにかくチームの誰かがボールを持ったらゴール目掛けて爆進した。
すると……
「ポーンと前線に出されたボールを拾ってゴールを決めようとする抜け目のないストライカー」かと思ったのか、相手のディフェンスが2人3人と私めがけて走ってくるではないか。
私のポジションは左のウイング （FW）。
※ウイング、という言い方に時代を感じる
相手側の右DF陣はもちろん、私が中央のゴールめがけて斜め方向に突っ走るため、相手側センター陣営たちも私の突進にマークマークと対応せざるを得ない。
そうなると、おのずと「左側はガラ空き」かつ「センターはグチャグチャ」となる……。
その混乱を利用し、ウチのチームのエースストライカー （センターFWならびに右FWの2名）が、バッコンバッコンと点を決めていくのであった。
私はこの極秘指令について、徐々にその仕組みを理解していった。
「私のようなポンコツがようやくチームの役に立てる時が来たか……」と感動すら覚えたものである。
しかし後年、このことを大人になったチームメイトに話すと「えっ！ コーチ、そんなことを小学生に指示してたの!? 鬼だな！（笑）」とみな驚き、なおかつ私の影の活躍など1ミリも気づきていなかった様子だったのである。
だが、そんなことはどうでもいい。
私は今でもこのコーチに感謝をしているし尊敬している。
1ミリも「鬼」とだなんて思ってない。
だってだって、単なる「穴」でしかなかった私に「大穴」を演じろと指令を出し、結果としてスペースにも「大穴」ができ、得点につながっていくとか……。
コーチ、天才すぎだろ。
諸葛孔明ばりの策士だろ……。
なお、この作戦は、私が出場できた「試合の半分の時間」のうち、私が単なる「おとり」であることがバレるまでの十数分間のみしか通用しない。
バレていないうちは、まさしく「アタックチャンス」となり確率変動の連チャン状態だが、相手のコーチに私の素性がバレたら一貫の終わり。
「おい！ あの12番はマークしないでいいっ！」
「その12番は何もできない！ おとりだ！」
「おーい！ あのメガネは放っておけっ！」
このような悲しい指示が相手チームのコーチから出される （実際に私にも聞こえている）と、誰もついてこないのでオフサイド連発。
また元通り、私のスペースは単なる「穴」となるのであった。
まさしく「幻想が解けた瞬間」である。
幻想、すなわちファンタジー。
もしかしたら私はある意味ファンタジスタだったのかもしれない。
それがたとえ数分間だったとしても。
