都内某所にあるチャーハンの名店。
行列必至の人気店。
なので私は開店20分前から店の前で並んでいた。
平日なこともあり、当然ながらトップである。
相当な気合い。
絶対に今日はエビチャーハンを食べるんだという強い決意を持って。
しばらくすると、ひとりの女性がやってきた。
髪型はおさげ、かわいらしい女性。
まだ開いていない店の壁に貼ってあるメニューをまじまじと凝視している。
顔から「ふむふむ」という声が聞こえる。
おそらくこの店に来るのは初であろう。
やがて3人目が来たが、おさげ女性の並び方向が「逆」だったので、変な方向に列ができてしまいそうに。
こういう場合、この店のしきたりをよく知る先頭の私がリーダーシップをとらねばなるまい。
「あの、すみません、行列は、こっち方向に……とお店の人が言っていました (ペコ)」
なんて恐縮しながら伝えると、「あっ、すみません、わかりました! ありがとうございます!」と非常に気持ち良いお返事と共に、列も正常の方向へ伸び始めた。
いよいよ入店。
ズンズンズン。
先頭は私。
食券機で買うのは、もちろん「エビチャーハン」。
2人目のおさげ女性は、何チャーハンを頼んだのだろう。
やはり「初」なら、ほうれんそう?
食券システムなので、何を頼んだのかは、わからない。
おさげさんは、店内をキョロキョロ。
「オリジナルのラー油」が買えることに気づいた彼女は、「ラー油も、お持ち帰り用に欲しいです」と申告していた。
女将さんは「辛いですよ〜」みたいなことを言っている。
初々しい会話だ。
そんなこんなで、まずは私のエビチャーハンから来た。
うまい。
当然ながら最高。
ここのチャーハンは本当に絶品。
ほうれんそうチャーハンも最高だけど、エビもいいなぁ……。
──なんて思っていたその時!
女将「はいレバニラ定食おまちどうさまです」
おさげ女性「わー、おいしそう!」
!!!!!
!!!!!!!!!
チャ、チャーハンじゃない……だと……!?
そんなことあるのか?
ここは都内屈指のチャーハンの名店。
それなのにレバニラ……!
しかも、おそらく「初訪店」なのにレバニラ!
そんなことが……と、その時!
大将「今日のレバニラはとびきり美味いよ。いいレバーだったから」
女将「……だそうです (笑顔)」
おさげ女性「わー、やったー!」
!!!!!!!!!!!
チャーハンの名店で!
おそらく初訪店で!
チャーハンではなくレバニラ!
しかも「当たり」の日!
というか大将がこんなこと言ってるの初めて見た!
それほどまでに自信作のレバニラを一発で引き当てるとは……!
いや、もしかして、大将のイチオシ料理が実はチャーハンではなくレバニラだったりして、それを知っての初手レバニラだったりするのか……?
そこまで調べ上げてのレバニラだったりするのか……?
いずれにしても……
このおさげ女性、できる……!
というか、私なら、できない。
だって、チャーハンの名店。
1日の限定数も決められている貴重なチャーハン。
それを蹴ってまでのレバニラ。
並んで、2番目に位置しているのにレバニラ。
そんなこと、できるかっ……!
絶対にホームランが入るであろうど真ん中のストレートをあえて見逃し、際どいコースの変化球にあえて手を出す天才肌のバッター的な……!
しかも勝ってる。
大将のお墨付き。
なんという勝負強さ。
本当にスゴイと思ったし、美味そうにレバニラを食べるおさげさんの姿を横目でチラ見しては、彼女から漂う「真の食通オーラ」を私は左半身全体でビンビンに感じていた。
孤高のグルメ。
彼女の「食の経験値」と「食の当て勘」は、きっとおそらく相当なもの。
かわいらしい見た目なのに、実は海原雄山ばりの実力者。
もしかしてdancyu(ダンチュウ)の編集者か記者だったりするのか……?
何者なんだ、この女性は……!
ともあれ、エビチャーハンは美味かった。
でも次は、私もレバニラ定食を食べてみたい。
開店前から並んで。
限定数の決まっているチャーハンの名店で。
あえてのレバニラを頼んでみたい。
どんな世界が広がっているのか。
開けてみたい。
メインストリームのすぐ横にある扉を。