いつぞやか登山をしたとき。
何度か「こんにちは!」と挨拶を交わした男性がいた。
会うたびに彼はタバコを吸っていた。
休憩ポイントごとに彼は「タバコ休憩」をしていたのである。
そしてそのタバコは、ほんの少しだけ、美味そうだった……。
都内の駅周辺の喫煙所は、まるで牢屋のように見える。
狭い場所に押し込まれて、みな病気のようにスパスパとタバコを吸っている。
すでに禁煙した身だからそう見えるのかもしれないが、かつて自分があの場にいたのが信じられない。
1ミリたりとも羨ましくないばかりか、かわいそうに見えたりもする。
ああ、中毒なのだな、と。
ところがだ。
埼玉県の伊豆ヶ岳を登りながら「一服」している彼から漂う煙の香りは、それはそれは美味そうだった。
なんというか、嗜好品としてのタバコを「嗜んでいる感」や「楽しんでいる感」がハンパなかったのだ。
それはまるで「休憩ごとにコーヒーを飲む」がごとく、実に優雅な喫煙。
少しだけ、羨ましく思った。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
禁煙してからのここ数年で、タバコを「美味そうだな」と思ったのはこれが初かも。
とはいえ、ふたたびタバコを吸いたいとは1ミリたりとも思っていない。
あの習慣は単なるニコチン中毒であり、タバコは完全なるドラッグ、すなわちドラッグ中毒である。
吸いたくて吸いたくてイライラするだなんて、そんな危険な中毒症状、他のドラッグでもなかなかないぞ。
あるとしたら、かなり危険なドラッグだ。
ちなみに今日で禁煙してから1180日以上が経つらしい。
節約できた金額は78万円。
伸びた寿命は1/3年。
禁煙できて本当によかった。