先週の土曜日くらいからだろうか。
また血便っぽいものが出るようになってしまった。
便をするたび、便器にはスプレーでシュッとひと吹きしたみたいな霧状の血便が付いている。
プカプカと便が浮かぶ水の色も赤っぽいし、お尻を拭いたトイレットペーパーにはキレイな鮮血。
色は明るい赤なのでたぶん痔とかだろう、すぐに治るだろうと思い放置していたが、連日の毒霧。
ついこの間、手術したばかりなのに……。
──もしやこれ、痔ではなかったりする?
私、大腸ポリープもよくできる人間なので (これまで内視鏡ポリープ除去手術2回)、いよいよ大病に立ち向かう時がやってきたか?
常日頃から「明日は無いかも」と思いながら全力で生きることを意識している私だが、いざファイナルカウントダウンが始まるのかと思うと、情けなくも未練が残る。
まだやり残したことが山ほどあるのに、と。
そんな不安な気持ちと共に、ふたたび肛門科の門をくぐった。
「ああ、羽鳥さん、お久しぶり」
先生は私のことを覚えていてくれた。
カルテを見たのかも知れないが、そんな先生を見て安心する私がいる。
なぜか私は先生のことを絶対信用しているのだ。
いろいろと肛門をいじくられたからだろうか。
変な話では無いが、そういうの、ある気がする。
ともかく、かくかくしかじか、状況を説明。
先生は「なるほど、なるほど」とウンウン頷き、
「それではさっそく見せてもらいましょうか」
と立ち上がる。
私も「ハイッ!」と立ち上がり、なんの躊躇もなく診察台の前でズボンを下ろし、よどみないスムーズなムービングで「下半身丸出し&仰向けで腿の裏を抱えて肛門を見せる」というポージングを無言でキメた。
まるでモハメドアリと対峙したアントニオ猪木が、ゴングと同時にマットに寝転んだかのように。
不思議と恥ずかしさは皆無。
やはり、過去に肛門をいろいろされたからだろうか。
そういうの、ある気がする。
「お尻を持って、グイッと広げて」
「ハイッ!」
それにしても、この間おそらく1分以内。
「出会って3秒シリーズ」ではないが、「出会って1分以内に肛門を見せる関係」というのも珍しいなと、尻を左右に引っ張り肛門を広げながら考えていた。
ビニールの手袋をした先生が、「ちょっと失礼しますよ」も言いながら、私の肛門に指をインサート。
「ヒィ、ヒィ!」
やはりコーモン指入れは慣れないもので思わずマヌケな声が漏れるが、
「うん、広い、広い。広いですよ。十分に広い!」
以前は「キツイ、キツイ」だったのに、この日は逆で広い認定。
天井を眺めながら「ああ私は、本当にケツの穴の広い男になったのだ」と実感する。
さらに、
「キレイキレイ。とってもキレイ」
肛門に指を入れながら何を見てキレイと言っているのか定かでは無いが、とにかく私はキレイらしい。
しかし、
「シマリはすごい。っかァ〜、すっごいシマリ!」
先生による私の肛門評をまとめるとこうだ。
「肛門は広く、キレイかつ、シマリは良い」
肛門を「心」に置き換えると、「フトコロは大きく何でも受け入れるが、仕事には厳しい」といったところか。
言われてみれば、そうかも知れない。
もしも「肛門は人間そのものを表す説」があるとしたら、1票入れても良いと思った。
そして先生は「はい、大丈夫」と言いながら慣れた手つきで私の尻をパカッと開き、ガーゼを挟んでテープでとめて「もう大丈夫」と。
そして念押しの「全然大丈夫」からの、
「切れ痔だね」
との診断結果を私に告げた。
なんでも、肛門は広くなったがシマリが良いのでキレやすいのは相変わらずらしく、
「急性切れ痔です」
との最終診断。
かつて東京ドームでの大一番に完勝した長州力は、プロレス記者に「キレたんですか?」と聞かれ、
「キレちゃいないよ。
まぁキラしたやつは一応いねぇだろ。ウン。
でもキラさない限り本質的には、キラさない限りは……勝てないよな。多分。
多分オレの勝負はそっからだから。アア。
まぁ、キレていいのか、悪いのかな、アア」
との意味不明なコメントを残したが、私はどうもキレやすいらしい。
キレていいのか悪いのか、もちろんキレないでほしいのだが、たぶん私の勝負もそっからな気がする。アア。
最後に先生は、「お風呂ね」と何度も言った。
シャワーではなく、お風呂 (湯船)に入るのが大切なのだという。
「血流を良くすると (切れ痔も)良くなりますから。温泉なんてサイコーです」
夏の間や忙しい時はシャワーだけで済ませていたけど、今後は必ず湯船にも入ろうと思う。
ちなみに先述の長州力は、上記コメントの後に
「コンディションはいいんだよオレは。
最っ高にコンディションはいいんだよ。
明日明後日もまだあるし。オレはね。ウン」
との言葉を残したが、私もコンディションは悪くない。
腰が痛かったり疲れが取れなかったりはあるけれど、精神的なコンディションは良好だ。
ただ、このところ少し無理しすぎた感もある。
特に今年はハイスパートに動いている。
今まで「明日は無いかも」と思って生きてきたけど、今後は「明日明後日もまだあるし」という気持ちで生きようかと思う。
長州力のように。
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